『夫の隣で、私はひとりだった』最終話|幸せだった。でも、続けてはいけなかった

前回、私はとうとう仲本君と越えてはならない一線を越えてしまいました。

夫に誕生日を忘れられた夜。

仲本君から届いた一通のLINEに救われた私は、「もう無理かもしれない」と送ってしまいました。

その言葉をきっかけに、仲本君と会い、一線を越えてしまったのです。

翌朝、隣で眠る仲本君を見て、私は激しく後悔しました。

もう、元には戻れない。
そう思いました。

それでも――。
仲本君が「おはよう」と笑った瞬間、私はまた、その人の隣にいたいと思ってしまったのです。

あの日から、私は少しずつ変わっていきました。
でも、そのときの私は、自分が変わっていることに気づいていませんでした。

目が覚めた瞬間、胸の奥が重くなりました。

昨日のことが、夢ではなかったと思い出したからです。

「私、何をしてしまったんだろう……」

昨日までの私は、こんなことになるなんて思っていませんでした。

話を聞いてもらうだけ。
少し一緒にいるだけ。
そう思っていたはずなのに。

私は、自分で一線を越えてしまいました。

今日も何も知らない二人と、いつも通りの時間を過ごさなければいけません。

朝食を作る時も、昨日のことが頭から離れませんでした。

卵を割ろうとして、手が止まる。
包丁を持ちながら、ぼんやりしてしまう。

「ママ、どうしたの?」

娘に声をかけられて、私は慌てて笑いました。

「何でもないわよ」

何でもないわけがありません。
胸の奥が、ずっとざわざわしていました。

「もう、終わりにしなきゃ」

そのときは、本気でそう思っていました。

これ以上続けたら、本当に取り返しがつかなくなる。
仲本君とは距離を置こう。LINEも、もうしない。そう決めたはずでした。

ところが、その日の昼休み。
机の上に置いていたスマホが震えました。

画面を見ると、仲本君からでした。

「昨日、会えてよかったです」

たった、それだけ。
たった一通のLINEでした。

それなのに胸の奥が、ふっと軽くなりました。
思わず、口元が緩むのがわかりました。

昨日のことを後悔しているはずなのに。
罪悪感でいっぱいだったはずなのに。

仲本君から連絡が来たことが、嬉しかったのです。

私はしばらく画面を見つめた後、「私も……」と返信していました。

送ったあとで、「あ……」と思いました。
もう連絡しないと決めたばかりなのに。

それでも、仲本君から返事が来ると、喜んでいる自分がいました。

そうして、私たちはLINEを再開したのです。

それから私は、会社に行くと自然と仲本君を探すようになりました。

廊下を歩いているとき。
給湯室に行ったとき。
休憩時間。

誰かと話をしているときでさえ、ふと視線を向けてしまいます。

「あ、今日もいる」

姿を見つけるだけで、少し嬉しくなります。
目が合えば、それだけで胸が跳ねます。

仲本君も、少し笑ってくれる。
それだけで、その日はなんとなく機嫌よく過ごせました。

以前は、ただの同僚でした。
仕事の相談をしたり、くだらない話をしたりする相手。
それだけだったはずです。

でも、今は違います。

同じフロアにいるだけで気になる。
少し離れたところに姿が見えれば、つい目で追ってしまう。逆に、姿が見えないと、なんとなく落ち着かなくなります。

「今日、休みなのかな」

そんなことを考えながら仕事をすることもありました。

自分でも、少し変だと思わないわけではありません。

でも、嫌ではありませんでした。
むしろ、楽しかった。

会社に来れば仲本君に会える。

そんなことが、毎日の楽しみになっていました。

LINEも、以前より気になるようになりました。

仕事中にスマホが震えるだけで、「仲本君かな?」と急いで画面を見る始末。しかし通知の大半は、会社からの連絡だったり、通販のお知らせだったりします。

仲本君じゃないとわかると、「何やってるんだろう?スマホに集中していないで、仕事に集中しよう」と、小さく息を吐いて、スマホを伏せます。

でも、しばらくすると、また気になってしまう。
今度こそ仲本君かもしれない。

そう思って画面を見る。
何も来ていない。

そんなことを何度も繰り返していました。

これではまずいと思い、自分から送るのはやめようと思った日もありました。

でも、仕事が終わる頃になると、「今日は忙しかったの?」そんな短いLINEを送ってしまう。
私がLINEを送ると、仲本君からはすぐに返事がきます。

「今日はちょっとバタバタしてました」
その文字を見るだけで、安心してしまいます。

さっきまで少し寂しかった気持ちが、嘘のように消えていくんです。

私はスマホを眺めながら、ふっと笑っていました。

ある日、会社で仲本君が女性社員と話しているのを見かけました。

仕事の話をしているだけなのは、わかっていました。

二人で資料を見ながら、何か話している。
それだけのことです。

なのに、和やかに笑いながら話している横を通り過ぎる時、なぜか胸がざわつきました。

自分の席に戻った後も、なぜか二人のことが気になって仕方ありませんでした。

何を話していたんだろう。
どうして、あんなに楽しそうなんだろう。

仕事なんだから、別にいいじゃない。
そう思うのに、さっき見た二人の姿が頭から離れませんでした。

そして、気づけば私は、仲本君のところへ行っていました。

「仲本君……さっき、女の子と話してたね」

自分でも、何を言っているんだろうと思いました。

「え?ああ、仕事の話ですよ。どうしたんですか?」

「別に」そう言いながら、自分でも少しムッとしているのがわかりました。

そして、余計な一言まで口から出てしまいました。

「仲本君って、会社の女の子と仲良さそうだよね」
言った瞬間、しまったと思いました。

何を言っているんだろう。
まるで、嫉妬する彼女みたいじゃない。

慌てて笑ってごまかそうとしました。

「……なんてね。仕事だもんね」

すると仲本君が、少しだけ私の顔を見て、笑いながら言ったのです。

「もしかして、嫉妬してるんですか?」

「えっ」

一瞬、言葉が出ませんでした。

「ち、違うよ」

反射的に否定しました。
けれど、その言葉とは裏腹に、顔が熱くなっていくのがわかりました。

「なんとなく言っただけだから」
そう言って、その場を離れました。

自分の席に戻ってからも、しばらく胸が落ち着くことはありませんでした。

嫉妬。
私は、仲本君に嫉妬していたのでしょうか。

最初は、ただ話を聞いてもらいたかっただけでした。

夫には言えないことを聞いてほしかった。
頑張っている自分を見てほしかった。

それだけだったはずなのに。

いつの間にか私は、仲本君が誰と話しているのかまで気にするようになっていました。

そのとき初めて、自分の中にある気持ちを、少しだけ怖いと思いました。

そんなある日、昼休みに同僚と話をしながらお弁当を食べていた時のことです。

いつものように、私はテーブルの端に置いたスマホをちらちらと確認しては、仲本君からLINEが来ていないか、何度も画面をタップしていました。

別に、待っているつもりはありませんでした。
ただ、それでもスマホが気になってしまう。
そんなことが、いつの間にか当たり前になっていたのです。

「鈴木さん、最近ずっとスマホ見てません?」

「え?」思わず顔を上げました。

「そうかな?」
「うん。さっきから何回見てるのかなって」

私は慌ててスマホを伏せ、「そんなに見てないわよ」と、笑ってごまかしました。

同僚も、「そう?ならいいけど」と笑っています。

その場では、それだけのことでした。

けれど、少ししてから、ふとスマホに目が向きました。
……また見ている。自分でもおかしくなって、小さく笑いました。

別に、何かを待っているわけじゃない。
けれど、なんとなくソワソワしてしまうのです。

その日の午後、別の同僚と仕事をしているときのこと。

「そういえば、鈴木さん。仲本君と何かあった?」

「えっ?」思わず声が裏返りました。同僚は、いたずらっぽく笑っています。

「最近前にも増して、なんか仲いいじゃん」

「何もないわよ」私は笑いながら、すぐに否定しました。

すると、同僚はさらに冗談めかして言いました。

「やっぱり仲本君とそういう関係なの?」
「ええっ?」
「ぶっちゃけ、不倫してるの?」
「ちょっと、何言ってるのよ」

私は笑いながら、慌てて手を振りました。
同僚も「そっか。ごめん、ごめん。冗談だから」と笑いました。

だから、そのときも深く考えませんでした。

「みんな、よくそんなこと言えるなあ」そんなふうに思ったくらいです。

けれど、一人になったとき。
さっきの言葉が、なぜか頭の中に残っていました。

やっぱり仲本君とそういう関係なの?
ぶっちゃけ、不倫してるの?

私は何気なくスマホを取り出しました。

画面には、仲本君とのLINEが残っています。

少し前なら、こんなふうに誰かに言われても、何とも思わなかったはずです。

ただの同僚だったから。
「何もない」と、迷いなく言えたから。

でも今は…。
「何もない」と言い切った自分の声が、妙に耳に残っていました。

私は画面を見つめました。
そこには、仲本君から届いたメッセージがいくつも並んでいます。

何気ないやり取り。
仕事の話。
くだらない話。
そして、私のことを気にかけてくれる言葉。

それを見ていると、胸の奥が少しだけ温かくなりました。

同時に、さっきの言葉がまた浮かびました。

何もない。本当に、何もないのだろうか。
そう考えた瞬間、胸の奥が小さくざわつきました。

私はその気持ちを振り払うように、スマホをポケットにしまいました。

そして、何事もなかったように仕事に戻りました。

このときの私は、まだ気づいていませんでした。

周りから見れば、私が思っている以上に、仲本君を意識しているように見えていたことに。
そして私自身も、もう「ただ話を聞いてもらっているだけ」ではなくなっていたことに。

その日の帰宅後、娘がいつものように「おかえり」と言ってくれました。

「ただいま」そう答えて、私は娘の顔を見ました。

何も知らない顔。
いつもと同じ笑顔。
その顔を見ていると、昼間の同僚の言葉がまた浮かびました。

仲本君と仲いいよね。

私は、その場に立ったまま、しばらく動けませんでした。

「ママ、どうしたの?」

「ううん。何でもない」そう言って笑いました。

その日はいつものようにスマホを手に取れませんでした。

テーブルの上に置いたままになったスマホ。
バイブレーションを感じた時、反射的に手が伸びそうになりました。

でも、止めました。

画面を見ないまま、娘のほうを向きました。

「今日、学校どうだった?」

「えっとね……」

娘が嬉しそうに話し始めます。私は、その話を聞きながら、何度も頷きました。

でも、頭の中には別のことが浮かんでいました。

娘が寝たあと、私は一人でリビングにいました。
テーブルの上には、帰ってきてから置きっぱなしにしていたスマホがあります。

ふと、壁に飾ってある家族写真が目に入りました。

娘がまだ小さかった頃の写真。

夫と私が笑っている。
今より少し若い私。
写真の中の私は、今よりずっと楽しそうでした。

私はしばらく、その写真から目を離せませんでした。

その時、スマホが震えました。仲本君からです。

「今日は大丈夫でしたか?」

その文字を見た瞬間、胸が温かくなりました。

やっぱり嬉しい。
心配してくれている。
私のことを気にかけてくれている。

そう思うと、すぐに返事をしたくなりました。

いつものように返事をしようとして、そのまま止まりました。

家族写真とスマホを交互に見ながら、「私は、何をしているんだろう……」とつぶやきました。

私は仲本君とのことを考えました。

彼といるだけで、楽しかった。
話を聞いてもらえるのが嬉しかった。

「頑張っていますね」と言ってもらえるのが嬉しかった。抱きしめてもらったときは、本当に安心しました。

あの夜、私が救われたことは間違いありません。

だからこそ、怖くなりました。

このまま続けたら、どうなるんだろう?

今よりもっと会いたくなる。
もっとLINEが欲しくなる。
もっと私だけを見てほしくなる。

今だって、少し返信が遅いだけで気になってしまう。
他の女性と話しているだけで嫌な気持ちになる。

私は夫との関係に寂しさを感じていました。
なのに今度は、仲本君に「私だけを見て」と思っている。

そう気づいたとき、胸の奥がぎゅっと苦しくなりました。

このまま彼との時間に心を預け続けたら、いつか家族よりも彼を優先してしまうかもしれない。

そこまで行ったら、もう戻れない。

その夜、私は何度もスマホを開いては閉じました。

「会いたい」そう思う自分がいます。

会いたくて仕方がない。
声も聞きたい。
顔も見たい。

その気持ちを抱えたまま、私は何度も家族写真を見ました。

娘の笑顔。夫と私。そして、今の私…。

しばらく考えてから、私はスマホを手に取りました。

文章を打っては消し、何度も迷いました。
そして、ようやく送りました。

「仲本君。もう、会うのをやめよう」

送信した瞬間、涙が出ました。

嫌いになったわけではありません。

むしろ、こんなにも好きになってしまっていたのだと、ようやく理解しました。
だから、こんなに苦しい。

仲本君からは、すぐに返信が来ました。

「どうしてですか?」

画面を見つめながら、私はしばらく返事ができませんでした。

仲本君が悪いわけではない。
私を傷つけたわけでもない。
あの時間が嫌だったわけでもない。

むしろ、幸せだった。

だからこそ、このままではいけないと思いました。

私は涙を拭きながら、ゆっくりと文字を打ちました。

「私、自分が自分じゃなくなっている気がする」

送信すると、また涙がこぼれました。

今振り返ると、あの頃の私は、恋がしたかったわけではなかったのだと思います。

夫との間にできた隙間を、誰かに埋めてほしかった。

これまでずっと妻として母親として、毎日家族のためだけに動いてきました。

そうしていつの間にか、一人の女性として見てもらうことを、どこかで諦めていたのだと思います。

だから、誰かに言ってほしかった。

「頑張ってるね」「大丈夫だよ」そんな何気ない言葉がほしかった。
何でもない話をして、一緒に笑いたかった。
そして、ただ自分のことを必要としてほしかった。

仲本君は、そんな私に気づいてくれました。

話を聞いてくれて、笑ってくれて、私のことを一人の女性として見てくれました。
夫との間では感じられなくなっていたものを、私は彼との時間の中で取り戻していったのです。

だから、離れることが怖かった。

けれど、あの時間があったからこそ、私は初めて気づくことができました。

私が本当に欲しかったのは、恋愛ではなかったのだと。

誰かに気持ちを受け止めてもらうこと。
自分の存在を認めてもらうこと。
一人で抱えていたものを、誰かに話すこと。

私は、そんな「つながり」を求めていたのです。

婚外恋愛を終わらせたからといって、夫婦の問題がなくなったわけではありません。

夫との距離は、そのままでした。

仲本君とのLINEがなくなった夜は、何度もスマホを手に取りました。

いつもなら届いている時間になっても、通知はありません。

わかっているのに、画面を確認してしまう。そんな日が、しばらく続きました。

寂しかったです。
でも、もうその寂しさを、誰かとの恋で埋めようとは思いませんでした。

私は少しずつ、自分の気持ちを考えるようになりました。

私は、本当は何が欲しかったんだろう?
どうして、あんなにも仲本君との時間を求めたんだろう?

考えてみれば、私はずっと、自分の寂しさを一人で抱えていました。

夫には話せないこと。
友達には話しにくいこと。

「こんなことを思っているのは、私だけなのかな?」

そう思いながら、自分の中にしまい込んでいたのです。

あの頃の私は、そんな気持ちを話せる場所があることすら知りませんでした。

今なら思います。誰かとつながりたいと思うこと自体は、悪いことではありません。

ただ、その寂しさを、一人の誰かにすべて埋めてもらおうとすると、その人がいなければ自分を保てなくなってしまう。

私は身をもって、それを知りました。

仲本君との時間は、確かに幸せでした。
救われたことも、楽しかったことも、本当です。

だから、あの時間のすべてが間違いだったとは思っていません。

でも、幸せだったからこそ、そこで立ち止まる必要がありました。

あの恋が終わったあと、私はようやく、自分が何を求めていたのかを考えられるようになりました。

恋ではなく、つながりを求めていたこと。誰かに答えを出してほしかったのではなく、ただ自分の気持ちを安心して話したかったこと。

私にとって仲本君との出会いは、恋の始まりでした。
そして同時に、自分の心に向き合うきっかけでもありました。

私は、思っていた以上に寂しかった。
そして、誰かとつながりたいと思っていたのです。

あの頃の私に必要だったのは、恋愛ではなく、自分の気持ちを安心して話せる相手だったのだと思います。

あの頃の私が、もっと早く気づいていたなら、きっと違う選択肢もあったのだと思います。


もし、今のあなたにも「誰かに話を聞いてほしい」と思う気持ちがあるのなら。

夫婦のこと、家庭のこと。
周りには話しにくい気持ちを、誰かに話してみるところから始めてもいいのかもしれません。

誰にも言えない気持ちを、誰かと話してみませんか?

既婚者同士だからこそ話せることもあります。

▼ 夫婦のこと、悩み、何気ない話、誰かに話してみたいと思ったら

既婚者のためのマッチングコミュニティ

Afternoon.

\ 1分で無料登録できます! /

公式サイトを見る >


カップル写真

既婚者のためのマッチングコミュニティ

Afternoon.

既婚者同士の友達作りから、セカンドパートナーや婚外恋愛パートナーの出会い探しまで。

他サイト・アプリよりも真剣度の高いお相手が見つかること間違いなし。アフターヌーンでときめきと癒やしを見つけませんか?

\ 1分で無料登録できます! /

公式サイトを見る >

Afternoon.編集部

関連記事アイコン
関連記事
こちらの記事もどうぞ